2013/11/21

お前をお兄ちゃんにしてやろうか!? 感想

MF文庫Jより2013年8月31日に発売されたライトノベル『お前をお兄ちゃんにしてやろうか!?』を読みました。
まったく買う気無かったんですが、うわー、すごい可愛いやんけ絶対面白いやんけ伝説のポケモンあげるから誰か買ってくれ~とか呟いてたらなんとfunyofunyoさんがプレゼントしてくださりました。本当にありがとうございます。またポケモン交換しましょう。

で、読んでて妹候補ちゃん5人がメイド姿で部屋にくるシーンで泣いたので感想書きました。


「妹という存在は本当に素晴らしいのか?」
そりゃキモオタならだれだって、可愛い妹が居て、依存して、依存されて、結婚して、幸せに暮らす妄想はしたことがあるだろう。
しかしそれは人間を駄目にする関係性なのではないか? そんな堕落のサイクルに美少女という尊い存在を巻き込んでしまうのは人間として最悪の行為なのではないか? そんな思いを抱きつつ俺は妹関連の作品をやり漁って来た。
だけど大半の作品では倫理における問題性を訴え、開き直るか、正面から向き合って克服してしまうか。そんなパターンばかりだった。最もそれは尊いのだが、俺の求めている答えでは決してなかった。
倫理的な問題など妹という、か弱く繊細な存在の前ではどうでもよいのだ。そんなことはこのインモラルで広大な情報社会において悩むべき問題点じゃない。
妹と結婚して、本当に妹を幸せに出来るのか。本当にそれで自分は幸せになれるのか。
錯乱した考えではあるが、俺は妹という共依存の存在を望みつつ、共依存という甘ったれた関係性を否定していたのだ。
この不毛な思考の連鎖に終止符を打ってくれたのが「お前をお兄ちゃんにしてやろうか!?」であり、今後10年間、妹という題材を描く創作はこの作品が提示してみせた到達点的な価値観を前提にせねばならないのは確かであろう。

さてこの「お前をお兄ちゃんにしてやろうか!?」
基本的な構造は孤独で問題を抱えた異常な人間たちが共同体を形成して、主人公が彼女たちの内に抱える問題を解決するというスタンダードな方式である。
だが、それらの作品とは絶対的に違う部分がある。それは個人同士の関係性が繋がった上での共同体ということだ。
「部活動」の様な組織的な関係ではなく、個人が個人と仲良くした結果形成された共同体というのがこの「レジデンス太子堂」という集合なのだ。
組織ではなく個によって模られた共同体は美しい。その上で、自己を少しでも実現しようと他者の力を借りつつ努力する、その姿に人は涙し、勇気を貰うのだ。

主人公の名は太子堂陽一。まあこいつはどうでもよいのだ。大事なのはこいつを通じて俺が彼女たちとコミュニュケーションが取れるという事実だけだ。妹候補の彼女たちは5人居る。

田宮世霊音さん。12歳中学1年生、ひきこもりではあるが確固たる価値観を持ち、その為に行動する力を持っている。ただ、彼女は社会を知らないのだ。俺は彼女に社会を教えた。インタネットの友だちと物をやりとりする際の適正価格を教えた。一緒に外にでる練習をした、世界の広さを教えてあげた。

日村友美さん。15歳高校1年生、FPSとプラモが好きな女の子だけど、少し暴力的で他者と協調する事ができない。俺は彼女に協力して何かをすることの楽しさ、合理性を教えた。競争は大事だけど、幸福は競争だけでは手に入らないという事を教えてあげた。

三島小百合さん。13歳中学2年生、誠実で、器用で、身の回りのこともなんでも出来て将来もちゃんと見据えて努力する事が出来る偉い女の子だけど、人のために頑張りすぎてしまうきらいがある。俺は彼女に頑張る事は大切だけど、それだけだと周りが見えなくなってしまうから、それと、俺の幸せだけじゃなくて、自分の幸せを追い求めて。自信を持つことが大事。そうしてくれたら、俺はもっとキミを好きになると伝えた。

立花優希さん。14歳中学3年生。背が高くてカッコよくて凛々しいけど、女の子っぽくないのを本人は気にしていて、そのせいで女性と話せなくて、直そうとしても空回りしてしまう。そんな女の子だ。俺は彼女に正しい女性としての振る舞い方、衣装を教えた。彼女は元が可愛いから、可愛い服を着けたらたちまち似合ってしまって、でも、まだ女の子と話せるわけじゃない。だから、これからも一緒に頑張ろうと伝えた。

大隈美佳さん。11歳小学6年生。無邪気で、お手伝いが好きな優しい女の子だけど、500円玉を集めるのが趣味で、お手伝いのたびにお小遣いを要求してしまう。俺は「お手伝いは金銭の為にするんじゃなくて、手伝う心が大切なんだよ」と教えなければいけないんだけど。出来なかった。

この作品では個人を通じて問題を打ち明け、検討し、解決に向けて努力することの重要さが描かれるが、当然それだけでは解決できない問題というのは出てくる。
大隈美佳さんの例がそれだ。俺は彼女に教育を施さないといけないのに、どうやっても切り出せなかった。
何故なら年上の人間がこうこうこうだと押し付けるのは不遜に思えたからだ。
共依存での共助の重要性ばかりにフォーカスされがちだが、このようにそれでも解決できない問題というのは確実に存在するのだ。
だが、それを打破してくれるのが他者ことケンタくんである。大隈美佳さんの友達であるケンタくんは、俺が言うべきだが言えなかった事を大隈美佳さんに伝えてくれていたらしい。ありがとうケンタくん、ありがとう他者。
つまりこれは共同体外で他者とコミュニケーションを取ることの重要性を示しており。個人だけではなく他者という双方向性を持った問題解決策を提示する辺りに作者の作家性、善良さが伺える。
単独でも、共同体でも解決できない問題があっても他者とコミュニュケーションを行うことでブレイクスルーは可能なのだ。

そうやって互いに検討を重ね、俺は彼女たちに、もっと一緒に頑張って正常な人間を目指そうと誓った。だが現実は残酷である。俺が彼女たちと過ごせる猶予はあと2日しかないのだ。 あと2日で、この中から1人を妹として選ばないといけないのだ。
この中から幸福にできるのは1人だけ。そこで前述の苦悩が闇の様に襲い掛かってくる。
「本当に妹と共依存することで幸福になれるのか?」
「それは甘えじゃないのか?」

その悩みに答えを出せぬまま、俺は機械の様にページをめくる。不意にメイド姿の妹たちが目に入る。妹たちが部屋に遊びにやってきたのだ。

世霊音さんは苦手だった掃除を手先の器用さを活かして進んでやってくれる。あんなに自分の部屋の掃除を渋っていたのに、まるで別人のようだ。

友美さんはお姉ちゃんとしてみんなに掃除を指示してる。不満が出ないように均等に接してくれて、わがままで自分勝手な妹だった出会った頃とは大違いだ。

小百合さんは食事を作ってくれた。マニュアル通りの、調べた俺の好物じゃなくて。俺に食べて欲しい食事を作ってくれた。自分の想いを素直に伝えられる子になれたのだ。

優希さんも女の子は苦手なはずなのに、みんなと協力して掃除をやってくれる。 女の子の前に立つだけで震えてたあの頃とは見違えるくらい、見た目だけじゃなくて芯もたくましくなった。

美佳さんは洗い物のお手伝いを率先してやってくれている。お小遣いのためじゃない。手伝ってあげたいと言って手伝ってくれている。

このメイドシーンはおそらく、レジデンス太子堂という共同体の崩壊を悲しみではなく、笑顔で、強く乗り切って欲しいという作者の善良な配慮であろう。俺の涙腺はその優しさに限界を迎えていた。

そして妹を決める日当日。情けないことに俺の決意は固められていなかった。
不可能なのだ。誰か1人を選ぶなんて。選んだところで、結局俺は依存してしまう……そんなのは嫌なのだ。このまま本を閉じて本棚に押し込めてやろうとさえ思った。そうしてしまえば、誰ひとり傷つかなくて済むのだ。
けれども、それでも誰かを選ばくちゃいけない。それこそが愛しい日常をくれた妹たちへの誠実な態度であると知っていたからだ。

「妹は決まりましたか? 陽一さん」
俺の背後に5人の妹候補たちが並んでいる。5人の中で、選べるのは1人だけだ。 こんな残酷な事があるだろうか。
悩みで押しつぶされそうになっていた。すると妹候補のみんなから、妹を決める前に話があるというのだ。話ってなんだ? ここで「私を妹に選んでください」と言われたら、俺はその子を選んでしまうかもしれない。だから、やめてくれ。そんな話は―――

「そばにいると私はお兄ちゃんにばかり頼ってしまうので、私はお兄ちゃんの妹にはなれません」

兄の支援を受けなくとも頑張ってみせる。それこそが美しい人間の生き方であると。世霊音さんは言ってみせたのだ。
馬鹿だ、俺はなんて馬鹿なんだ。彼女たちの強さを分かってあげられてなかった。分かった気になっていた。俺が居ないと彼女たちは頑張れないと。勝手に決めつけてたんだ。
彼女はなんて強いんだ。 そうだ。彼女たちのお陰で気付けた。
人は何かに依存したままでは強くなれないのだ。共依存は排他すべき関係性なのだ。
彼女たちは依存を必要としない強い人間を志した。いつか、強くなって、そして恋人としての関係を望んだのだ。
彼女たちが得ようとしたのは、妹という依存を前提とした立ち位置ではなく、恋人としての、対等な関係。
お互いが依存を必要とせず、2人身を寄せ合って楽しく過ごすというそんな理想的で善良な関係を望んだのだ。この決意は実に尊い。そうなんだ。俺が求めていた答えはコレなんだ。この決意こそが最も必要としていた覚悟なんだ。
だが時に決意と結果は伴わない。妹という立場を放棄するという願いは権威によって切り捨てられ、主人公は再度決断を要求される。
そこで彼女たちは問いかけるのだ、主人公に? 違う、俺にだ。現実に生きる俺という存在にだ。
依存じゃなく、助け合える関係。私はあなたの力になりたい。そういう決意があれば、きっと大丈夫だから。前に進めるから、だから彼女たちはページをめくる俺に問いかける。

「「「「「お前をお兄ちゃんにしてやろうか!?」」」」」


ありがとう世界。こんな自分に、こんな美しい人たちと巡りあわせてくれて。
頑張って社会で生きていきます。ありがとう。本当にありがとう……
苦悩は善良な妹たちによって打ち払われた。答えは得られたのだ。
これから先の決意は、彼女たちがするものでも、主人公の太子堂陽一がするものでもない。
この本を手に取り泣いているキミが、決意すべきなのだ。
ちゃんと考えて、悩んで、他者と検討してもいい、とにかくキミは彼女たちに誠実な返答を行うべきなのだ。
さあ! 答えは読者に委ねられた!! この一冊の偉大な書物の行く末! 決めるのはキミだ!
オタクどもよ!
思いおもいの答えを書き連ねよ!
声に出してもよい!
彼女たちに対するキミの誠意を見せてくれ!







僕はすごく悩んだ結果、田宮世霊音さんを選びました。2人で暮らして、一緒に自己実現しような。世霊音さん。いや、世霊音―――